地球の先端(9日目)
一日雪のため身動きができずロッジで過ごす。翌朝起きると雪がわずかだが積もっている。しかし空には雲の切れ間も見える。8時ごろだったろうかとうとう青空が切れ切れではあるが現れ始め、アメリカ人とカナダ人のトレッカーと一緒にカラパタールに登り始めた。頂上に着くとローチェとエヴェレストが並んで見えた。とても地球の一部とは思えなかった。もうあの先端は宇宙だと思った。あそこにいってみたいと思う人の気持ちが少しわかったような気がした。
   
                 
               
                 
  ダウンヒル(10日目)
 エヴェレストを見て高山病を吹き飛ばした僕は、いよいよダウンヒルを始めた。クンブ氷河の平原に下りるまでは急な岩場だ。トライアルの選手なら難なく降りていくのだろうが僕は安全に担ぎ下りる。岩場をパスすると氷河の草原地帯だ。ロブチェをすぎて氷河の南端まで緩やかな下り。トレイルに沿ってのんびりクルージングだ。あー今までの苦労はこのためにあったんだとじーんとくるくらい気持ちいい。もちろん自然へのインパクトを考えて決してスピードは出さない。シェルパたちがちょっと小走りする程度の速さだ。ゴラクシェプのロッジで聞いた話だと、ここをマウンテンバイクで下る経験をした人は過去に何人かいるらしい。あるアメリカ人はエヴェレストベースキャンプまでバイクを担いでいったという。日本人も何年も前にマウンテンバイクを担いでカラパタールまでいっているそうだ。しかし軽量なフルサスバイクでここを快適にクルージングしたのは僕が初めてではないだろうか。信頼できるバイクをしっかりとチューニングして気持ちよく山を下る。マウンテンバイクは山と気持ちよく同調するための最適な手段だと改めて思った。
行きに苦しめられたドゥルガの激坂にまたしても苦しむ。岩場を延々と担ぎ下ろし、かなり膝にこたえる。小さな橋を渡るとペリチェの草原だ。
 
           
     
    石造りの作業小屋。自然に溶け込んでいる。 ロッジの前に干してある表土。いい床材になる。
自由な時間(11日目)
 ペリチェから川を渡ってオショーの草原に出る。ここは緩やかな下りでまたしてもここまできてよかったー!と叫びたくなるくらい気持ちいい。短い草がおおい茂り、緑のじゅうたんのようだ。またしても夢の中のようだ。トレイルが草原中あちこちにできていて、どのルートを取るのも自由だ。あるトレイルは低い木の間をぬけ、あるトレイルはちょっとした岩場下り。そして崖の脇を走ったりもする。網の目のようになっておりどれも最終的にひとつの道にたどり着く。トレイルを外れないことが自然にやさしいダウンヒルの大前提なので、これまでなかなかこんな走り方はできなかった。あちこちに張り巡らされたトレイルを走れたこの草原で僕は一番の‘自由’を感じた。
 

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