シングルトラックを快走(3日目・4日目)
高山病予防で標高に体を慣らすためにナムチェで一日過ごしたあと、ティンボチェに向かう。崖の脇を通るシングルトラックが続く。バイクで走るのにちょうどよいアップダウンの繰り返しで気持ちいい。行く先にはとんがった形が印象的なアマダブラム峰が見えてすばらしい眺め。そんなトレイルを4Kmほど楽しめる。一度ドゥドコシ川まで下りきって急坂を上らなくてはならない。しばらく押しと担ぎが続き大きなゴンパのあるティンボチェに到着。

             
                       
         

ティンボチェに向かう崖の道を、アマダブラム峰を望みながら走る。

   
           
幻想的なディンボチェ(5日目・6日目)   
 ティンボチェをでると森の中を駆け下りていくシングルトラックだ。森を抜けると激流にかかる橋を渡る。流されたらガンジス川まで流されそうな勢いだ。パンボチェを過ぎオショーの平原にでる。これまでの険しい山道から一気に視界が開け、しかもゆるいのぼりだからバイクに乗っているのが楽しい。だんだんと低木の高山植物が増えてきて、厳しい気候の場所であることを思い出させてくれる。ひと時の安らぎだった平原をすぎ、しばらく上るとディンボチェの集落に着いた。
 ここでまた高度順化に一日使う。もうここは標高4340mあるので気がつくと呼吸が速くなっているのがわかる。半日かけて、チュクン峰に向かって標高500mほど登り、そしてまたディンボチェのロッジに戻ってきた。天候が一瞬にして悪化、なんと雪になった。視界は20mもない。もう少し帰るのが遅かったら山の中でこの状態だったことを考えると怖くなった。コンパスを持っているとはいえ初めての場所だ。山をなめると怖い。
 次の朝、天候を心配しながら外に出ると、集落全体が朝もやに包まれている。地表から霧がわきあがっているようで、石造りの家の輪郭をぼかしさらに周りの景色に同化していた。幻想的だ。
 
       
霧が晴れるとアマダブラムが頭上に ストゥーパに描かれた目
 

見つめる目(7日目)
強い朝の光がロッジの部屋に差し込んできて、体が十分あったまったところで出発した。ドゥーサという草原を軽く上っていく。ここから行きかう人も少なくなりまわりの自然と自分だけの時間が多くなってくる。たまにすれ違うトレッカーやシェルパ人がかなり珍しそうに僕のバイクを見ている。天気はすばらしく高度順化もうまくいっており快調に草原を走りきった。

   
                                 
   
                 
頭を使って上んなきゃ(8日目)
ドゥグラを過ぎるとエヴェレストから流れ出るクンブ氷河の始まりで、氷河までは30mほど一気に急坂を上らなくてはならい。この坂はかなりこたえた。もちろんバイクに乗ることは不可能で、頭の上に乗せてバランスをとりながら行くしかない。フレームの前三角部分にヘルメットをすっぽり当てはめてあとはハンドルを片手で持ってバランスをとる。ここまでくるとこのスタイルにも慣れてきて、急坂も片手で岩につかまりながらなんとか登ることができる。少しくらいすべってバランスを崩してもバイクはちゃんと頭の上に乗っている。うまくバイクを頭に載せることはできたが、僕自身をコントロールすることが難しくなってきた。ここまでくると空気の薄さは確実に実感できるものとなる。10歩進んでは深呼吸する状態が続き、峠は見えているのだが一向に近づく気配はない。距離感覚もおかしくなっていたのだろう。初めてつらいと思った。
こうやって頭に載せて歩いていた。
     
 
       
         
  まぶしくて目が開けられないほどの銀世界になった        
白い世界へ(同8日目)
 翌朝起きると雪が積もって一面真っ白だ。夜のうちにかなり降ったようだ。でも天気はすこぶるよく、空がどこまでも透き通っている。少し頭痛がする。食欲もなくなってきて、朝はココナッツクッキーしか食べられない。とうとう高山病の兆候が出てきたようだ。まだ症状は軽いので、早めに行動しようと朝の光が差し込む前に出発した。
 インド人のトレッキンググループのポーター二人と一緒になる。彼らもゴラクシェプまでいくという。彼らに道案内をしてもらい彼らのペースについていく。足元は5センチほどだが雪が積もってどこがトレイルなのかわからない。時々雪の上をペダルを回して進んでみるが長くは続かない。乗ったり降りたりの繰り返しだ。しばらく歩いたところで、突然光が差し込んだ。朝日だ。それまでのぼんやりしたグレーだった周りの景色が一瞬にして変わった。もうまぶしくて目を開けていられないくらい光があふれ、自分を含めてポーターの二人とも白い世界に浮遊しているようだ。
 日が昇るにつれて雪は消えていった。最後の岩場を担ぎ上げるとダウンヒルのスタート地点であるゴラクシェプに到着。手前のロッジに入って一番楽しみにしていたゴラクシェプでのミルクティーを飲んだ。うまい!
 
     
             
  朝日が昇るメラピーク。朝は氷点下、軒下には氷柱が。 ヤクにもうっすらと雪が積もっている。    
             
 

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